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過去と現在の交差点 – 北村 1

 

桂洞路の上から見る北村の風景

北村を訪れたのは、暑い夏の日。午後 2 時頃のことでした。写真を撮るのが目的でしたが、いざ行ってみると「見るべきものは何もないよ。でも立ち寄ってみるにはいい所だ」と聞かされ、本当に何もなければほかへ行こうと考えていました。私が趣味として写真を始めたのは 3 年前。フィルムのカメラに興味を持ったのはさらにその後のことです。デジタル カメラを使うときよりもなめらかで温かい感触に魅力を感じ、フィルム カメラで写真を撮ることが多くなりました。北村の古い街並みはきっとフィルム カメラと相性がいいだろうと考えたのです。安国駅に到着して出口を出ると、桂洞路と仁寺洞路が向かいあっています。仁寺洞は混み合っていましたが、桂洞路の入口は比較的静かで落ち着いていました。私は桂洞路に向かって、古びた標識を頼りに歩き始めました。背中を汗がしたたり落ち、夏の始まりを告げていました。

 

ソウルのアナログ旅ルート

桂洞路 (계동길) – パスタ (파스타) – 中央高校 (중앙고등학교) – 北村韓屋村 (북촌 한옥마을) – 北村展望台 (북촌 전망대) – 正読図書館 (정독도서관) – プンニョン トッポッキ (풍년떡볶이) – アート ソンジェ センター (아트선재센터)

桂洞路の入口

安国駅の 3 番出口から通り沿いに歩き、最初の角で左に曲がると桂洞路の出発点です。「チェ小児科」の看板が見えたら正しいルートを歩いている証拠。この病院の建物は、白い紙に包んだ粉薬を手渡しながら、子どもの頃に診てくれたお医者さんを思い出させます。狭い路地に沿っていくと、古びた看板が時折目に入ります。

チェ小児科

テグ ゴマ油屋

大学生らしい若い男女がその通りへ吸い寄せられていきます。テイクアウトのコーヒーを片手に、ゴマ油を売る店の前に集まり、観光名所のように写真を撮っています。「ひと昔まえの景色みたい」、「すごいね」、「ほとんど映画のセットだね」と口ぐちに言っていましたが、本当にそのとおりなのです。「映画のセット」という言葉に、くすっと笑ってしまうような、なぜか切ないような気持ちになります。

テグ ゴマ油屋は桂洞路の真ん中にあり、いつも大勢の人でにぎわっています。見るからに開けにくい、古い引き戸のガラスは新品のようにぴかぴかに磨かれています。母親が毎日立っていた台所を思わせる清潔さと温もり。

鼻をくすぐるゴマ油の香りにほっこりとした気分になります。ゴマ油屋の前でごま油の香りがするのは当たり前。なのに、なぜか胸の鼓動が突然高まります。きっと、いつも優しく愛情を注いでくれた母や祖母を思い出す、懐かしい香りだからですね。

桂洞路のデザイナーズショップ

桂洞路には、私が想像していたよりもはるかに多くの若者向けデザイナーズ ショップやカフェがあります。韓屋 (韓国の伝統的な家屋) の土台は残したまま、ドレスを売る洋品店や手工芸品のワークショップが丘のあちこちに点在していました。近づいてよく見ると、韓屋も新しく建てられたもの。まだペンキ塗りたてのような木枠を背景にほかの外国人が写真を撮っています。ふと「彼らの記憶にはどんな韓国のイメージが残るのだろう」と思いました。

パスタ看板

アルミの弁当箱に入ったパスタ

年季が入っているように見える公衆浴場の看板には、なぜか「パスタ」の文字。こうした一見ミスマッチな感性こそが、北村独自のカラーを生んでいるのでしょう。北村は古い街だと思っていましたが、実は斬新なアイデアあふれる若者のエリアでもあることがわかります。このレストランに入ってみると、エアコンの代わりに使われていたのはレトロな扇風機。アルミの弁当箱に入ったパスタは素朴な北村そのもの。新しいのになぜか懐かしい気持ちになります。

中央高校キャンパス入り口

中央高校キャンパス

桂洞路の端まで来ると、中央高校が見えます。学生時代には果てしなく高く、巨大に見えた校門の鉄扉。今では、週末になると大きく外に開かれています。まるで人々をかつての少年、少女時代へと誘っているようです。

正門から見える古い本館は青々としたツタに覆われ、とてもミステリアスな雰囲気を醸し出しています。高校時代、体育の授業中に水道の水を飲んだ経験のある人なら、校庭の古い蛇口に思わず立ち止まってしまうことでしょう。蛇口の向こうには校庭の青々とした芝が広がっています。ここで少し休んで、学生時代に戻ったような気分を楽しむことにします。

中央高校は非常に古い学校です。手入れの行き届いた設備からは、どのくらい古い学校なのか想像するのも難しいのですが、韓国の近代史とともに歩んできた歴史的な場所です。1908 年創立の中央高校は 1919 年に三・一独立運動が始まった場所。ここの生徒は、この歴史を誇りに思っていることでしょう。さらに、1987 年に起きた民主化運動の 6・10 デモをリードしたのもこの学校。学校全体が記念碑的価値を持っています。現在は学生たちの学び舎であり、市民の憩いの場でもある中央高校。私にはあらゆる意味で新しい場所に感じられました。

北村の風景

桂洞路

学校から出ると、桂洞路をひと目で見渡せます。入り組んだ路地の周りに軒を連ねる閑静な家々は、懐かしくも温かく感じられます。右手には、また上り坂。息は切れますが、疲れは感じません。心地よい疲労感は、誰かと一緒に山へ登ったときに感じるようなもの。